東京高等裁判所 平成7年(ネ)5150号 判決 1997年5月28日
控訴人
株式会社あさひ銀行
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人弁護士
木村一郎
同
三井拓秀
同
和仁亮裕
同
玄君先
同
野崎綾子
被控訴人
Y
右訴訟代理人弁護士
辻嶋彰
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、控訴人に対し、金三二二三万八三九〇円及びこれに対する平成三年一〇月一日から支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人
主文と同旨
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
第二 当事者の主張
当事者の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
一 原判決一枚目裏七行目の「スワップ取引(クーポン・スワップ)」を「スワップ取引に係る契約(クーポン・スワップ取引。以下「本件契約」といい、本件契約に基づく日本円とスペイン国通貨ペセタとの相互支払による取引を「本件スワップ取引」という。)」と、同一二行目の「当事者間に争いのない事実等」を「請求原因」とそれぞれ改める。
二 原判決二枚目表一行目から同七行目までを次のとおり改める。
「 、次のような内容の本件契約を締結した。
(一) 控訴人と被控訴人とは、以下に定めるところにより、各決済日に、各支払金額を、被控訴人は、日本円(想定元本金額一〇億円)により、控訴人は、スペイン国通貨ペセタ(以下「ESP」という。想定元本金額ESP六億六一五〇万六九一三)により、相互に支払う。
(二) 取引開始日を平成二年八月二九日とし、最終期限を平成四年八月三一日とする。
(三) 決済日は、平成三年二月二八日を第一回とし、以後最終期限までの毎年二月二八日及び八月二九日とする。
(四) 支払金額の算定方法は、被控訴人については円想定元本金額×25.5パーセント×実日数÷365とし、控訴人についてはESP想定元本金額×26.5パーセント×実日数÷365とする。
(五) 被控訴人が債務の一部でも履行を遅滞したときは、控訴人は、通知によって期限の利益を失わせるとともに、通知日にこの契約を解除することができる。
(六) 控訴人により本件契約が解除された場合、被控訴人は、解除によって生じる損害を直ちに賠償しなければならない。
(七) 被控訴人が控訴人に支払うべき金員の支払を遅延した場合の損害金は、年一四パーセント又は調達コストプラス二パーセントのいずれかの高い割合による金員とする。
2 被控訴人は、本件契約により定められた第二回目の決済日である平成三年八月二九日(以下「第二回決済日」という。)に、本件契約に定める算定方法によって算出された被控訴人の支払金額一億二七一五万〇六八五円と控訴人の支払金額ESP八七四〇万九五三〇を同月二三日の外国為替相場(ESP一当たり1.2550円)により円換算した一億〇九六九万八九六〇円との差額(以下、控訴人の支払金額と被控訴人の支払金額との差額を「決済金」という。)一七四五万一七二五円の支払をしなかった。
3 控訴人は、被控訴人に対し、平成三年九月二六日付け内容証明郵便により、本件契約を同月三〇日(以下「解約基準日」という。)限り解除する旨の意思表示(以下「本件解除告知」という。)をするとともに、右同日現在の外国為替相場により算出した第二回決済日に被控訴人が支払うべき決済金(以下「第二回決済金」という。)一七七一万三九五三円と本件契約の解除によって生じた得べかりし利益の喪失による損害三八一三万八八一一円の合計五五八五万二七六四円の支払を催告する旨の意思表示をし、右意思表示は、同月二七日、被控訴人に到達した。
4 本件契約の解除によって生じた得べかりし利益の喪失による損害について
(一) 本件契約は、合計四回の決済日における金銭の相互支払を内容とするものである。この四回の決済日における各支払義務は、それぞれ個別の契約に基づくものではなく、全体として一個の契約に基づくものである。そして、各当事者が各決済日に支払う各金銭は、契約期間を通じて全体としてみた場合に契約時点において価値が等しいものとして計算され、合意されたものである。したがって、全四回の決済日における決済金の支払が行われて初めて、本件契約の目的が達成され、両当事者の債務の履行が完了することになる。このように、全四回の決済金の支払が行われなければ契約の目的が達成されないのであるから、本件契約が契約期間の途中に被控訴人の債務不履行を原因として解除された場合に、その解除によって控訴人が被った損害額を算定するに当たっては、履行期既到来の決済金の支払債務のみならず、履行期未到来の決済金の支払債務も考慮されなければならない。そうでなければ、控訴人に被控訴人の債務不履行がなかった場合と同じ経済的地位を回復させることができないからである。このような本件契約の解除によって控訴人が被る損害は、将来の得べかりし利益の喪失による損害にほかならず、民法四一六条一項にいう損害の範囲に含まれる通常損害である。
そして、控訴人が本件契約の解除によって被った得べかりし利益の喪失による損害の額は、次のとおりである。すなわち、本件契約における第三回目の決済日(以下「第三回決済日」という。)である平成四年二月二八日に支払われるべき決済金(以下「第三回決済金」という。)については、本件解除告知の日の前日である平成三年九月二五日における日本円とESPとのスポット・レートは一ESP=1.2581円(甲第二三号証)、右同日における解約基準日である同月三〇日から第三回決済日までの日数(一五一日)に最も近い五か月物の日本円の金利は年6.375パーセント(甲第二四号証)、六か月物のESPの金利は年12.177パーセント(甲第二五号証)であるから、解約基準日における第三回決済日を引渡日とする日本円とESPとの先物為替レートは一ESP=1.2290円となり、第四回目の決済日(以下「第四回決済日」という。)である平成四年八月二九日に支払われるべき決済金(以下「第四回決済金」という。)については、本件解除告知の日の前日である平成三年九月二五日における日本円とESPとのスポット・レートは前記のとおり一ESP=1.2581円(甲第二三号証)、右同日における解約基準日である同月三〇日から第四回決済日までの日数(三三六日)に最も近い一一か月物の日本円の金利は年6.125パーセント(甲第二四号証)、一二か月物のESPの金利は年12.132パーセント(甲第二五号証)であるから、解約基準日における第四回決済日を引渡日とする日本円とESPとの先物為替レートは一ESP=1.1947円となるから、これに基づいて右各決済日における各決済金の現在価値を計算すると、別紙記載のとおりとなり、控訴人は、被控訴人から、第三回決済金として一九三一万六二四〇円、第四回決済金として二一八四万八〇八四円の合計四一一六万四三二五円の支払を受けるべき立場にある。
(二) なお、控訴人は、本件契約の締結に際し、本件契約から発生する為替リスクを回避するために、アメリカ合衆国ニューヨーク州のAIGフィナンシャル・プロダクツ・コーポレーション(以下「AIG」という。)との間に、本件契約の反対取引を内容とする通貨交換取引契約(以下「本件通貨交換取引契約」という。)を締結していたが、本件契約が解除されたことに伴って、本件通貨交換取引契約を解約し、AIGに対し、解約金として三八一三万八八一一円を支払った。このことは、控訴人が本件契約の解除によって被った損害が少なくとも右金額を下らないことを裏付ける間接事実である。
(三) そこで、控訴人は、被控訴人に対し、本件契約の解除によって生じた得べかりし利益の喪失による損害として、(一)により計算した四一一六万四三二五円のうち三八一三万八八一一円の支払を求める。
5 控訴人は、平成三年九月三〇日、被控訴人が控訴人との取引に関して担保として差し入れていた控訴人への預金債権元利金二三六一万四三七四円について担保権を実行したので、被控訴人が本件契約により控訴人に対して負担する債務は、三二二三万八三九〇円となった。
よって、控訴人は、被控訴人に対し、三二二三万八三九〇円及びこれに対する本件契約が解除された日の翌日である平成三年一〇月一日から支払済みまで約定の年一四パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1のうち、被控訴人と控訴人がESP投機に関する契約を締結したことは認めるが、被控訴人は、本件契約の内容については、その詳細な説明を受けておらず、控訴人が主張するような内容の契約であったことは否認する。
2 請求原因2のうち、被控訴人が決済金の支払をしなかったことは認めるが、金額については否認する。
3 請求原因3は、認める。
4 請求原因4は、争う。
控訴人の本件契約の解除により生じた損害の請求は、控訴人が被控訴人との本件契約の締結に際し、AIGと締結した本件通貨交換取引契約を本件契約の解除に伴って解約し、AIGに対し三八一三万八八一一円を支払い、同額の実損が生じたことを根拠とするものであるが、被控訴人は本件通貨交換取引契約の締結については何ら説明を受けておらず、本件通貨交換取引契約は被控訴人と関係なく締結されたものであるから、控訴人が本件通貨交換取引契約を解約したことに伴ってAIGに対し解約金として右三八一三万八八一一円を支払わざるを得なくなったとしても、本件契約の解除によって控訴人に生じた損害と解することはできない。
三 被控訴人の抗弁
1 控訴人のB支店長らは、被控訴人に対し、本件契約が為替レートの動向によっては被控訴人に損害が発生する危険性のあるものであるにもかかわらず、これからバルセロナ・オリンピックを控えてESPは強くなるので必ずもうかる、被控訴人には迷惑をかけない等と言って被控訴人を欺き、その旨誤信させた上、本件契約を成立させた。
2 被控訴人は、平成五年八月三〇日の原審第五回口頭弁論期日において、控訴人に対し、右詐欺を理由に、本件契約を取り消す旨の意思表示をした。
四 抗弁に対する認否
抗弁の主張は、争う。」
第三 証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 当裁判所は、控訴人の本件請求は理由があり、認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正又は削除するほかは、原判決の「第二 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
1 原判決二枚目裏一行目の「甲第一号証」を「1 甲第一号証」と、同三行目の「1」を「(一)」と、同六行目の「十億円」を「一〇億円」と、同九行目の「2」を「(二)」とそれぞれ改め、同一〇行目の「B」の次に「(以下「B支店長」という。)」を、同一一行目の「C支店長代理」の次に「(以下、B支店長及びC支店長代理を一括して「B支店長ら」という。)」をそれぞれ加え、同一二行目の「Bら」を「B支店長ら」と改め、同一三行目の「東京海上火災保険株式会社」の次に「(以下「東京海上火災」という。)」を加える。
2 原判決三枚目表五行目の「3」を「(三)」と、同六行目の「B」を「B支店長」と、同九行目の「4 Bら」を「(四) B支店長ら」と、同一〇行目の「これを持参して」を「「SWP取引の御案内」と題する書面、金利の早見表及び過去の為替相場の推移表という三つの資料(甲第四号証の一ないし三)を持参して」と、同一二行目の「期間」から同裏一行目の「あること」までを「クーポン・スワップ取引というのは、異なる通貨の金利のみを交換して元本は交換しない取引であること、本件スワップ取引においては、一〇億円の日本円と一〇億円相当額のESPをそれぞれ想定元本とし、控訴人は、ESPで年26.5パーセントの金利を被控訴人に対して支払い、被控訴人は、日本円で控訴人に対して年25.5パーセントの金利を支払うこととなること、したがって、為替相場が契約当時と同じであれば、被控訴人は、控訴人から支払を受けた金利と控訴人に対して支払った金利の差額一パーセント分を得ることができ、東京海上火災からの借入金利は実質一パーセント減となり、円安が更に進めば更に低減するが、円高になったときには、金利の負担が増えることとなり、為替レートの変動によって損得が生じるリスクのある商品であること、期間はバルセロナ・オリンピックまでの二年間とすること、金利の交換をする期間は六か月毎とすること」とそれぞれ改める。
3 原判決三枚目裏四行目の「できないこと及び」を「できないし、控訴人としても、本件契約から生じるリスクを回避するために、本件契約と同じような日本円とESPの金利の交換契約をスワップ市場と締結することとなるので、原則的に、中途解約は困難であること及びクーポン・スワップ取引は」と、同五行目の「を必要とする」を「が必要で、一〇億円の取引だと2.5パーセントに相当する二五〇〇万円の担保が必要となるが、担保は預金でも不動産でもどちらでもよい」と、同七行目の「5」を「(五)」と、同行目の「同年」を「平成二年」と、同八行目の「次のような」から同四枚目表一三行目末尾までを「、本件契約を締結した。
2 右認定のとおり、控訴人は、本件契約締結に際して、被控訴人に対し、本件契約は、約定の決済日に日本円とESPの金利を相互に交換するクーポン・スワップ取引といわれるもので、平成二年八月二九日を取引開始日、平成四年八月三一日を最終期限として、この間に、平成三年二月二八日を第一回とし、以降最終期限までの毎年二月二八日と八月二九日を決済日として、被控訴人は各決済日における想定元本である日本円一〇億円に対する年25.5パーセントの金利を、控訴人は各決済日における日本円一〇億円相当額のESPに対する年26.5パーセントの金利を相互に支払うという、異なる通貨の将来の一定時点における資金を交換する契約であること、本件契約の期間は平成二年八月二九日から平成四年八月三一日までの二年間であり、原則として中途解約はできないし、中途解約をすることは不利益であること、控訴人も本件契約のリスクを回避するために日本円とESPの金利交換を目的とする契約をスワップ市場と締結すること、本件契約は為替リスクを伴う商品であるので取引額の2.5パーセント程度の保証金を積む必要があること等を説明し、被控訴人は、控訴人から右のような説明を受けた後一週間ほどして、本件契約の締結に応じたものである。したがって、B支店長らから本件契約の具体的な内容についての説明を受けることなく本件契約を締結したとする被控訴人の主張は、理由がない。」
とそれぞれ改める。
4 原判決四枚目裏二行目の「B支店長ら」から同三行目から同四行目にかけての「承諾した」までを「B支店長らは、本件スワップ取引が為替レートの動向によっては損失が出る危険性のあるものであるにもかかわらず、必ずもうかるものである等と被控訴人を欺岡し、その旨誤信させて本件契約を締結させたものである」と、同五行目の「被告」を「控訴人」とそれぞれ改める。
5 原判決五枚目表一行目の「本件契約」から同一二行目の「認められないから」までを「B支店長らも、前記認定のとおり、被控訴人に対し、本件契約は約定の決済日に日本円とESPの金利を相互に交換するもので、平成二年八月二九日を取引開始日、平成四年八月三一日を最終期限とし、この間に、平成三年二月二八日を第一回とし、以降最終期限までの毎年二月二八日と八月二九日の合計四回を決済日として、被控訴人は各決済日における想定元本である日本円一〇億円に対する年25.5パーセントの金利を、控訴人は各決済日における一〇億円相当額のESPに対する年26.5パーセントの金利を相互に支払うという異なる通貨の将来の一定時点における資金を交換することを内容とする契約であることのほか、ESPの金利が高くなったときは被控訴人が得をするが、円高になったときには被控訴人の金利の負担が増えることとなる等為替レートの変動によって損得が生じるリスクのある商品であること等を資料に基づいて説明をしており、被控訴人は、これらの説明を受け、数日の考慮期間を置いた後、本件契約の締結方を申し出たものであるから、被控訴人は、本件スワップ取引の危険性や本件契約の特異性等を理解した上で本件契約を締結したものと認めるのが相当であり、B支店長らから必ずもうかる等と虚偽の事実を言われ、本件契約の内容を理解することなく本件契約を締結したとする被控訴人の前記主張は、採用することができない。
確かに、控訴人は、当時、頭取交代を記念した社内運動の一環として大口の預金協力を求めており、被控訴人に対しても金額二億円、期間二年間の預金協力を依頼した経緯が存するが、被控訴人は、控訴人とのこれまでの取引関係から右依頼を直ちに承諾し、東京海上火災から二億円を借り受けて右預金協力に応じたものであるし、控訴人が被控訴人に対して本件スワップ取引を紹介し、勧めたのも、被控訴人が右預金協力に応じたことから、今後、被控訴人は、控訴人から右預金に伴う金利の支払を受けるとしても、東京海上火災に対して金利を支払わなければならず、その差額の三〇〇〇万円を超える損失が生じる見通しであったことから、控訴人は、右預金協力によって被控訴人が被る損害をできるだけ小さくするための方策として、バルセロナ・オリンピック開催により日本円に比してESPの値上がりが予測されていたことから、日本円とESPの金利の交換を内容とする本件スワップ取引を紹介し、勧めたもので、専ら控訴人の利益を考えて被控訴人に対し本件スワップ取引を行うことを勧めたものではないし、殊更に本件スワップ取引を執拗に勧誘したという経緯も認められないから」と改める。
6 原判決五枚目裏五行目の「甲」の次に「第二号証、」を加え、同七行目の「支払日」を「決済日」と改める。
7 原判決六枚目表一二行目の「三二三八万八三九〇円」を「三二二三万八三九〇円」と、同一三行目の「支払日」を「決済日」とそれぞれ改める。
8 原判決六枚目裏四行目の「しかしながら」から同六行目末尾までを削り、同八行目の「されている」を「されていることは、前記認定のとおりである(甲第一号証の三条三項)」と改め、同一二行目の次に行を改めて
「 この点につき、控訴人は、本件契約の解除によって生じた得べかりし利益の喪失による損害として、第三回決済日及び第四回決済日における各決済金が右にいう本件契約の解除と相当因果関係のある損害であると主張する。
前記認定のとおり、本件契約は、契約期間を平成二年八月二九日から平成四年八月三一日までとし、この間に、平成三年二月二八日を第一回目の決済日とし、以降毎年二月二八日と八月二九日の合計四回を決済日として、控訴人は被控訴人に対して右各決済日におけるESPの想定元本金額ESP六億六一五〇万六九一三に対する年26.5パーセントの金利を、被控訴人は控訴人に対して右各決済日における日本円の想定元本金額一〇億円に対する年25.5パーセントの金利を相互に支払うことを内容とする一個の契約であり、控訴人は、本件契約において、合計四回の各決済日に、被控訴人から、右日本円の想定元本金額に対する右約定の金利の支払を受けるとともに、被控訴人に対し、ESPの想定元本金額に対する右約定の金利を支払うべき地位にあると認められる。そして、本件契約が被控訴人の債務不履行により解除されると、控訴人は、解除後に到来する各決済日において右日本円とESPの金利の交換を受ける地位を失い、右金利の交換に伴う利益を受けることができないことになるが、このような本件契約の解除後に到来する各決済日における日本円とESPの金利の交換により控訴人が受け得る利益は、本件契約の履行によって控訴人が将来得べかりし利益にほかならないから、被控訴人の債務不履行によって本件契約が解除されたことに伴って控訴人が被る将来の得べかりし利益の喪失による損害は、右債務不履行に伴う通常の損害であって、特別の損害ということはできない。したがって、被控訴人は、本件契約の解除によって控訴人に生じた得べかりし利益の喪失による損害を賠償すべき義務がある。
ところで、甲第二三ないし第二五号証によると、本件解除告知がされた平成三年九月二六日の前日である同月二五日における日本円とESPとのスポット・レートは一ESP=1.2581円、右同日における解約基準日である同月三〇日から第三回決済日である平成四年二月二八日までの日数(一五一日)に最も近い五か月物の日本円の金利は年6.375パーセント、六か月物のESPの金利は年12.177パーセントであるから、解約基準日における第三回決済日を引渡日とする日本円とESPとの先物為替レートはおよそ一ESP=1.2290円となり、また、同じく本件解除告知がされた日の前日である平成三年九月二五日における解約基準日である同月三〇日から第四回決済日である平成四年八月二九日までの日数(三三六日)に最も近い一一か月物の日本円の金利は年6.125パーセント、一二か月物のESPの金利は年12.132パーセントであるから、解約基準日における第四回決済日を引渡日とする日本円とESPとの先物為替レートはおおよそ一ESP=1.1947円となることが認められる。そして、これらの数値は、いずれも、金利、為替及び株式等の情報提供会社であるブルームバーグ及び共同通信社が公開しているもの並びにそれに基づいて算出したものであるから、客観的で信頼性が高いものと認められ、これらの数値に基づいて本件契約の解除によって控訴人の被る得べかりし利益の喪失による損害を算出することは、合理性があるというべきである。そして、右各先物為替レートに基づいて右各決済日における日本円の現在価値及びESPの円換算現在価値をそれぞれ算出し、決済金を計算すると、別紙記載(2)の「差額(円換算)」欄のとおり第三回決済金は一九三一万六二四〇円、第四回決済金は二一八四万八〇八四円、その合計額は四一一六万四三二五円となり、これが、本件契約が被控訴人の債務不履行により解除されなければ、控訴人が第三回決済日及び第四回決済日に得ることができたはずの決済金の現在価値である。控訴人は、本件契約が被控訴人の債務不履行によって解除されたことによって右決済金を得ることができず、右同額の損害を被ったことになる。」
を加え、同一三行目の「原告」から同七枚目表二行目末尾までを削る。
9 原判決七枚目表五行目の「AIG」から同六行目の「という。)」までを「AIG」と、同九行目の「金利及び通貨交換取引契約」及び同一〇行目の「この金利及び通貨交換取引契約」をいずれも「本件通貨交換取引契約」と、同一二行目の「この解約支払金額」から同九枚目裏一三行目末尾までを「しかしながら、本件通貨交換取引契約は、控訴人が専ら本件契約に伴う本件スワップ取引から生じるいわゆる為替リスクを回避し、その経済的な利益を保全するという目的で、控訴人が被控訴人と関わりなく独自の判断でAIGとの間で締結したもので、本件契約の履行とは直接関係のないものであるから、控訴人が本件通貨交換取引契約に基づいてAIGに対して支払った解約支払金額をもって本件契約の解除によって控訴人が被った損害であると認めることはできない。
5 そうすると、被控訴人は、控訴人に対し、右3認定の得べかりし利益の喪失による損害四一一六万四三二五円の範囲内の三八一三万八八一一円と第二回決済金一七七一万三九五三円との合計五五八五万二七六四円を支払うべきところ、控訴人は、平成三年九月三〇日、被控訴人が控訴人との本件スワップ取引に関して担保として差し入れていた控訴人への預金債権元利金二三六一万四三七四円について担保権を実行したので、被控訴人が控訴人に対して支払うべき右金額の残額は、三二二三万八三九〇円となる。
四 そうすると、控訴人の本件請求は、すべて理由があり、認容されるべきである。」とそれぞれ改める。
二 よって、当裁判所の右判断と異なる原判決は不当であるから、これを取り消し、控訴人の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石井健吾 裁判官 関野杜滋子 裁判官 星野雅紀)